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ESSAY エッセー

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第11回  オン・ザ・ロード 2025.03.21

 この記事がアップされる3月21日は、美術館開館の直前であり、学芸員ら職員は多忙をきわめているはずだ。すべてが順調に進んでいることを祈りつつ、筆を進めている現在は3月5日、私が何をしているかといえば、北関東の美術館を回って借用した開館記念展のための作品を東京の倉庫に収め、宿舎に戻ってきたところだ。

 今回の開館記念展を準備するうえではまず海外から作品を借用するか否かという選択肢があった。一部の映像作品を除いて、私が国内からの借用のみによって展覧会を構成しようと考えた理由は二つある。一つは海外からの作品借用にかかる経費が極端に高騰しているというきわめてプラクティカルな理由、もう一つは海外から借用せずとも今や国内の美術館が海外の美術作品についても厚みのあるコレクションを有しているという事実を示したいと考えたことだ。私は一点豪華主義的な展示が嫌いだ。展示とは畢竟、一つの文脈の提示であり、日本に近代的な美術館が設立されて半世紀、先人たちの努力によってコレクションの厚みは増し、海外の作家の作品を含め、日本国内の美術館に所蔵された作品によって充実した展覧会、すなわち美術の文脈を提示することが可能であることを示したいと考えた。

 一年以上にわたる作品の借用交渉についてはここでは措く。ひとたび借用の許可を得た作品については展覧会の直前に学芸員たちが借用に赴く。国内であれば借用はトラックに同乗して、手分けをして専門の作業員とともに数日の集荷旅行を続けることになる。開館記念展は大展覧会になったので、館長である私もトラックに同乗して5泊6日の集荷の旅の途上にある。40年近い学芸員生活の中でもこれほど長期の作品集荷の出張はあまり記憶にない。一日中トラックに乗って所蔵者のもとをめぐる出張はきつい仕事とみられがちである。しかし助手席でのドライブが好きで、しかも現場感のあるこの作業は私にとって楽しい仕事の一つだ。思えば北海道から九州まで、私はほぼすべての都道府県で作品を集荷した記憶がある。山の上にある施設からロープウェイを使って作品を運んだこともあれば、秘境の旅館から作品を借り出して絶景の中をドライブしたこともある。車の運転ができない私であるが、この仕事を通して、文字通りオン・ザ・ロード、日本中の無数の道路を踏破してきた思いがある。

作品借用のため、搬入口で待機する美術作品専用車

 作品集荷の旅程もずいぶん変わってきた。以前は文字通り朝から晩まで長い距離を移動することも多かったが、近年では働き方改革の影響もあって、一定時間一人のドライバーが運転を続けると、そろそろ休憩をとるように車内に自動的にアナウンスが流れる。かつては鳥取市を朝早く出発して、その日のうちに関東圏まで移動するようなスケジュールで作品に添乗することもあったが、最近は必ず途中で一泊したうえで移動するようになった。途中で一泊する場合はトラックを留め置く場所が施錠可能で有人警備されていることが必須の条件であるから、長距離に及ぶ借用の計画を立てることは簡単ではない。もちろん作品の借用にあたっては輸送計画も借用先に提出する必要がある。

 ところで海外と日本では作品輸送に関して興味深い違いがある。私の乏しいクーリエ(作品への随行)の体験、それもヨーロッパでの輸送に添乗した経験に基づいているから、どの程度一般化できるかはわからないが、ヨーロッパで国を越えるような移動をする際には、長い距離であっても途中で宿泊することなく、同じトラックに複数のドライバーが乗り込んで途中で交代しながら輸送を続ける。したがってクーリエとして立ち会う際にも途中の宿泊はなく車中泊というかたちで目的地まで同行することになる。私にとってはこれこそがきつい仕事だ。真夜中の高速道路を走るよりも、どこかで一度車を停めて休んだ方が作品にとっても安全な気がするが、それは海外の常識ではないらしい。さらにこの違いは日本とヨーロッパ、移動する場所に起因する訳でもないようだ。以前、他館の学芸員と雑談していた時に、こんな話を聞いた。この学芸員は最近、海外の同じ美術館から一括して多数の作品を借用して開催した展覧会を担当した。展覧会は長崎から東京へと巡回したため、その作品の輸送に立ち会うこととなった。当然ながら作品を所蔵する美術館の職員もクーリエとして同行する。九州から関東まで、通常であれば一泊ないし二泊の旅程であろうが、クーリエは途中で宿泊することなしに、複数のドライバーを待機させて車を停めず輸送することを強く主張し、結局そのような旅程となったという。「外国の人は、車を停めると襲われるという感覚があるみたいですね」と彼は笑ったが、おそらくそこには日本の治安がよいことに加えて、多くの美術品を一時的に保管し、有人で警備することが可能な設備とスタッフが各地に散在するという現実が背景としてあるだろう。おかげで私たち学芸員も夜は宿舎でゆっくり休んで、翌日の移動と作品借用のために英気を養うことが出来る訳である。まことに展覧会とはさまざまなインフラストラクチャーに支えられているのだ。

2025
WED
04.02
9:00
-
17:00
開館日
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